10/7のスパークで配布した無配ペーパーです。
ルシサン。
「メンズコルセットを着けたルシフェルにサンダルフォンがドキドキする話」
ルシフェル様がメンズコルセットを着けて凄まじい色気を発揮する話でもあります。
「ルシフェル様、おいでになっていたのですね!」
その日ゆっくりと歩いてくるルシフェルの姿を見つけたサンダルフォンは歓喜を含んだ声を弾ませて、ルシフェルの元に駆け寄った。
しかし、どこか違和感を覚える。
顔色が悪い? ルシフェルに限ってそんなことがあるはずないのに。
「……ああ、サンダルフォンか」
その声が掠れている気がして、サンダルフォンは首を傾げた。
何かがおかしい。サンダルフォンはルシフェルの姿を観察する。
いつもよりすっきりとした立ち姿だと不思議に思う。
その原因は何だろう。
美しい白銀の髪は変わりなく。空を映したような瞳は、何故だか揺れている。
素晴らしいほど滑らかな肌にほんのりと浮かんだ汗にどきりとする。
「……」
そして、こんなに不躾に観察しているのにルシフェルは何も言わない。
「……ルシフェル様?」
震えるような呼吸を繰り返すルシフェルの唇にくらっとしたのをごまかすように、サンダルフォンは彼の瞳を覗き込む。
そこでようやくサンダルフォンは気がついた。
ルシフェルの背に翼がない。それに鎧の下が心なしかほっそりしているように感じた。
「その、どうされたんですか? ルシフェル様が、翼をしまわれていらっしゃるなんて」
そう、ルシフェルは常に翼を顕現させていた。だからこそ珍しいのだ。
「……ああ、友の実験に少々……付き合っていたのだ……」
言葉も途切れ途切れで、呼吸をするたびに肩も揺れている。
実験に付き合ったというが、一体どんな実験だったというのだろう。
ルシフェルが疲弊するほどだ。恐らく過酷な実験だったに違いない。
「……サンダルフォン、少し……頼みがある……」
「はい、ルシフェル様! 俺にできることでしたら、何なりと!」
ルシフェルの頼みという珍しい言葉にサンダルフォンはピンと背筋を伸ばした。
「……私には休息と、君の手が必要だ……。君の部屋を借りても……?」
確かに今のルシフェルには休息が必要だ。
サンダルフォンはすぐに頷いて、ルシフェルを部屋に案内する。
ベッドとちょっとした小物以外は何もない部屋だ。
「どうぞ、ルシフェル様……」
ここに来るまでもドキドキだ。ルシフェルのやや荒い息遣いが頬に掛かって気が気でなかった。
少しここで休めばルシフェルも元気になるだろう。
その為にはゆっくり彼が休める環境が必要だとサンダルフォンは思った。
「では、俺は散歩をしてくるのでルシフェル様はどうかごゆっくり――」
お休みください。そう紡ごうとした声は、ルシフェルに勢いよく手を掴まれた事により固まってしまう。
「ルシフェル様?」
そしてバランスを崩した身体は倒れかかり、ルシフェルも同じように傾いでいく。
「……っ!」
気がつくとサンダルフォンは壁に背を預けて踏みとどまり、ルシフェルが壁に手を当てて身体を支えていた。いわゆる壁ドンの形だ。
ルシフェルの顔がすぐそこにある。震える吐息は鈴のよう。
胸が高まる。震えるルシフェルの吐息が顔に掛かる。
「サンダルフォン……頼む……君の手が、必要なんだ……」
「は、はい……」
ルシフェルの熱の籠った声に拒絶するという考えは全く浮かばず、サンダルフォンは頷いたのだった。
ルシフェルはほうっと深い息を吐いて、サンダルフォンからゆっくりと離れた。
その息遣い、仕草さえ艶めかしく思えてサンダルフォンは目眩を覚える。
ルシフェルがゆっくりと鎧を脱ぐのにも、サンダルフォンは何も言えなかった。
一体自分に何をさせるつもりなのか。変な想像ばかりしてしまう。
「……あれ?」
ルシフェルの鎧の下のインナーに見慣れぬ物がある。
革でできた胴を覆う何か。それは胸から腰にかけて絞るように、締めてあるようだった。
「ルシフェル様……それは?」
「友が、私の耐久テストとして……着けた装具だ。後ろに……締める為の紐がある……緩めてくれないだろうか……?」
ルシフェルの背に回り、翼のない背中にまたどくんと胸が鳴る。
「え、えーっと……これですね……」
どぎまぎと腰を絞る紐を手に取り、ゆっくりと解いていく。
「……うん、ありがとう。助かったよ」
装具が緩まるとルシフェルは大きく息を吐いてサンダルフォンを振り返る。
そこにはいつもの微笑みを湛えたルシフェルがいて、サンダルフォンはドキドキとした自分を隠すように笑ったのだった。
END