FGO七章をクリアした時の勢いのままに書き殴ったネタバレSSです。
何もなかった。ただ『彼女』の第一の息子であることのみが存在証明であったといえる。
友など必要なかった。この大地に生きる全ては母を拒絶したのだから。
何もなくていいのだと思っていた。母を嘆かせた全てを憎むしかなかったのだから。
記憶も経験も必要なかった。新人類として、世界に降り立つ自分にはそんな物は余分だったからだ。
けれど、結局それは幻想だった。母から生み出された量産型の醜悪な新人類。ラフムたちに事実を突きつけられた。
彼らには決定的に欠けている。ただ娯楽のために活動する。人類として学習する為にと謳いながら、旧人類を楽しみながら解体する。
そして、彼らと違うキングゥまでもその対象であった。彼らには自分たち以外必要ないのだ。結局今の人類と変わらない。
なのに。彼を助けた人がいた。醜悪な生き物に変えられてなお、傷ついた身体でキングゥを助けた『ラフム』。死に瀕したキングゥを救った個体はエルキドゥへの感謝を述べた。死んでしまったことが悲しかったとも。
何もなかったと思っていた空っぽの心に何かが流れ込んできた。知らないはずなのに、この身体は覚えていた。
違う中身を入れられてなお、知っている。名前も顔もどんな人間だったのかありありと思い出せる。こみ上げる感情に身体の制御ができない。
そうして辿り着いた、身体が覚えている懐かしい丘で。金の輝きを抱く者に言葉と共に祝福を贈られた。
それを祝福だと感じたのはこの身体で、キングゥではない。
力尽きるところを彼に見られるのだけは我慢ができなかった。それは身体が感じたことなのかキングゥ自身の誇りからなのか彼自身判別がつかなかった。
「どうして……」
王の去った丘。残された人形は何をしたかったのか思いを馳せる。この先は好きにしろと彼は言った。けれどそんなものは何もなかった。彼に会いたかったのは入れ物が望んだことだ。彼自身が望んだものではない。
「ボクには何もなかったのに……」
思えば、母の『息子』として何をしたかったのだろう。ずっと聞こえていた悲しい嘆きの声。それを止めたかったのだと、顕現したティアマトを見て思い出す。彼女は虚数世界から帰ってきてなお、嘆いていた。無数のラフムに囲まれてなお、悲しんでいた。
それは何故なのか。遠く、ギルガメッシュとティアマト神が対峙している。
大量のラフムが市内に流れ込む。それを空から見た彼は己の身体を変化させた武具を、地上に叩き込んでいた。
こんなのに対処もできない旧人類に対する心からの侮蔑はもうない。一人では何もできないけれど、一人ではないから世界の終焉まで生き延びた。
そのことだけは賞賛に値する。最後までただ一人の新人類だった彼は、結局のところ子供たちを生み出しても嘆き続ける母と何ら変わりない。
嘆き続けた母がただ一度だけ、彼を呼ぶ。きっとこの身体は元のエルキドゥのようには使えない。砕けてもいい。けれどそれは攻撃のために使うものではない。
「……人よ」
偽物でもいい。天の鎖として役目を果たせればいい。
「神を繋ぎ止めよう!」
変化する。全身が変化していく。それは長大な鎖であった。地から天へ、天から地へ。それは彼女の巨大な身体さえ取り巻く力。文字通り神を繋ぎ止める天の鎖。
けれど、それは決して自分の生み出した息子たちと触れあうことのなかったティアマト神への抱擁のようであった。